LPWAといえば、Sigfox、LoRaWAN、NB-IoTが主な通信技術として広まっていますが、これらに加えてELTRES(エルトレス)という規格が広まりつつあります。ELTRESはヨーロッパの標準化組織であるETSIで承認された規格であり、これはソニーが開発した通信規格です。
ELTRESには、安全通信、長距離伝送、低消費電力、高速移動対応、GNSS標準対応の大きく5つの特徴がありますが、他のLPWAの通信規格と比較して何が優れているのでしょうか?
ELTRESの通信速度や仕様は?他のLPWA通信規格と比較!
ELTRESにはどのような特徴があるのでしょうか。他のLPWAの通信技術であるSigfox、LoRA、NB-IoTと比較してみましょう。
ELTRESと他のLPWAの大きな違いの一つとして通信距離があります。他のLPWAでは一つの基地局ではせいぜい数十km程度のカバー範囲であるのに対し、ELTRESは100km以上となります。100kmという距離がどのくらいかというと、例えば東京駅から北に100kmの地点には栃木県宇都宮市があり、西に100kmとなると富士山となります。つまり、見通しが良いという条件が揃えば、東京駅から情報を発信し宇都宮市で受信できるということになります。かなりの距離ですよね。
ELTRESは高速移動通信にも対応しており、時速100km以上の速度で移動しながら通信が可能となっています。これまでのLPWAの通信技術はモビリティにはあまり向いていませんが、ELTRESはモビリティ、しかも高速での移動中でも通信を問題なく行うことができるという特徴があります。
更にELTRESの特徴として押さえておかなければならないのは、通信が上り方向つまり端末からネットワークに向けた片方向のみとなります。他のLPWAでは上りと下りが用意されているのに対し、ELTRESではネットワーク側から端末側への通信ができないということに注意する必要があります。
その他の特徴として送信機と受信機間でGPSなどのGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)の時刻情報を同期し高精度な通信を実現している為、GNSS信号が受信できない場所では利用ができませんので、これも注意が必要です。
ELTRESの気になるサービスエリアは?
100km以上の長距離通信が可能とはいえ、実際に利用可能エリアが狭くては使い物にはなりません。ELTRESのサービスエリアはどの程度広がっているのでしょうか。
2019年10月時点では、サービス提供エリアは東京、埼玉、神奈川、千葉、茨城、兵庫、大阪、京都のみとなっています。
東京、神奈川、千葉、埼玉でのサービスエリアは以下のとおりです。
都内23区およびその周辺であればそれなりにエリアが広がってはいますが、郊外はまだまだこれからという状況です。長距離通信という特徴を活かし、セルラーが圏外となるエリアで優位性を発揮できるということを考えると、まだまだエリア展開は十分であるとはいいがたいところです。
他のLPWAでは実現が難しいユースケースでELTRESを活用

考えられるユースケースとしては、他のLPWA同様に農業、漁業等における監視がありますが、それ以外でも長距離通信や高速通信を活かしたユースケースが考えられます。
例えば、長距離通信に関してはアドベンチャーレースのトラッキングでの利用があります。アドベンチャーレースでは山の中を走る為、スマホやケータイでは圏外となってしまうエリアがあるため、そのようなときにELTRESを利用することで選手の位置を常時把握し安全確保をすることが可能となります。また、非常に省電力であるため、アドベンチャーレース期間の数日間は充電することなく常時利用可能です。
その他、兵庫県ではため池の水位監視にELTRESを利用する実験を行っています。池の水位をLPWAを利用して監視するというソリューションは以前からNB-IoT、LoRA、Sigfoxを利用したケースがありますが、あえてELTRESを利用するモチベーションは何なのでしょうか?
ELTRESは何といっても長距離通信が可能であるため、セルラーが圏外であるエリアにおいてもサービスを提供できるということが非常に強みとなります。ため池によってはセルラーが圏外となるような山奥にあるものもあり、このような厳しい環境においてELTRESを利用することでIoTを利用した監視を行うことが可能となります。
もう一つのELTRESの特徴である高速移動通信を活かし、走行中の電車の車両からELTRESを利用して必要なデータを収集し車両内の環境や状況を把握することでサービス向上に役立てるというソリューションも考えられています。
様々なユースケース、可能性を秘めたELTRES

ELTRESはこれまで利用されてきたSigfox、LoRA、NB-IoTなどが持ち合わせている省電力はもちろんのこと、それに加えて長距離通信と超高速移動通信を可能としている画期的な通信規格です。従って、これまでのLPWAで実現できなかったようなことがELTRESを利用することで一気に解決する可能性があり、非常に今後の可能性を秘めた通信技術です。
一方で、上りのみの片方向通信しかなく、さらにGPSなどの衛星通信ができないところでは利用できないという制約もあるので、これらの制約がどのように影響してくるのか、今後ELTRESが広がっていくにつれて明らかになっていくでしょう。