9月11日にiPhone11シリーズが発表されました。iPhone11シリーズでは、カメラ機能が大きく改善され、その他にもバッテリーの向上や新たなチップセットの搭載など、昨年発売されたiPhone Xsシリーズと比較してもいくつか新機能が搭載されています。
このiPhone11シリーズで新たに搭載された新機能の一つにWi-Fi6があります。iPhoneXsのWi-Fiには802.11acという企画のWi-Fiが利用されていましたが、iPhone11ではWi-Fi6になり、名前が全く変わってしまいました。このWi-Fi6といはどのような特徴があり、これまで利用されていた802.11acと比較してどんなメリットがあるのか?この記事ではiPhon11シリーズに搭載されているWi-Fi6規格について分かりやすく解説をしています。
Wi-Fi6はWi-Fi規格の名称で、元々は802.11axであった!

iPhone11では新たにWi-Fi6という規格のWi-Fiが搭載されましたが、一つ前のiPhoneXsに搭載されているWi-Fi規格は802.11acでした。この802.11acという規格はかなり前のiPhoneから利用されている規格であり、実は2012年に発売されたiPhone5以降ずっと802.11acが採用されていました。ちなみに、その前のiPhone5では802.11nが使われています。
このようにiPhoneXsまでは802.xxというWi-Fi規格が利用されてきたにもかかわらず、iPhone11では802.xxという形ではなくWi-Fi6というこれまでとは異なる名前になっています。これはどういうことなのでしょうか?
Wi-Fiとは、Wi-Fi Allianceと呼ばれる業界団体が認証した無線LANの規格ですが、このベースとなる技術は国際標準化団体であるIEEE(アイトリプルイー)が標準化を行っています。そして、Wi-Fi業界団体であるWi-Fi Allianceが相互接続認証を行いWi-Fi規格として認証することで、世界中どこでもWi-Fiを利用することが可能となっています。
このIEEEの標準では、Wi-Fi世代ごとにIEEE802.11b、IEEE802.11g、IEEE802.11a、IEEE802.11n、 IEEE802.11ac、IEEE802.11axという名称を用いており、Wi-Fi Allianceもこれまではこの名称をそのままWi-Fiの規格として利用していましたが、ユーザにとってはわかりづらい名称であるため、2019年に以下のように名称を変更しています。
- 802.11n → Wi-Fi 4
- 802.11ac → Wi-Fi 5
- 802.11ax → Wi-Fi 6
従って、iPhon11に搭載されたWi-Fi6という規格は、802.11axのことであり、iPhoneXsまで搭載されていた802.11acの後継規格になります。
余談ですが、あまり注目はされていないものの、AppleはWi-Fiに関しては常に最新の規格を最速で商品に搭載する傾向があります。Wi-Fi6(802.11ax)という規格はまだドラフト規格であり標準化されていないにもかかわらず今年発売されたiPhone11に搭載されています。また、2012年に発売されたiPhone5sには802.11acがiPhoneシリーズで初めて搭載されましたが、この時も802.11acはドラフト規格であり標準化前でした。このようにiPhoneはWi-Fiの最新規格を積極的に取り入れているのです。
Wi-Fi6は高速通信以外にもバッテリーのもちも大幅改善
iPhone11に新たに搭載されたWi-Fi6にはどのような特徴があるのでしょうか?Wi-Fi6には大きく以下の3つの特徴があります。
- 高速通信/大容量
- 省消費電力
- 混雑時のパフォーマンス向上
これらを実現するために複数の新しい技術がWi-Fi6に取り入れられています。
高速通信/大容量
Wi-Fi6は理論上の最高通信速度は9.6Gbpsとなっています。マンションや戸建ての光回線の速度は現在はほとんどが1Gbpsでの接続となっていますが、その約10倍の速度です。これまでは無線を利用した通信においては無線区間が通信速度のボトルネックとなっていましたが、5GやWi-Fiではもはや無線区間ではなく伝送区間がボトルネックとなる時代になっています。
省消費電力
Wi-Fi6では、電力消費を抑えるための仕組みが入っています。通常、無線通信を行う際にはパソコンやスマホなどの端末は通信を行う為にWi-Fiアクセスポイントからの受信信号を短い間隔で定期的に受信し続けています。この受信信号は通信が無い時間帯でも常時受信し続けるため、どうしても端末の消費電力が大きくなってしまいます。
Wi-Fi6ではこれを改善するためにTWT(Target Wake Time)という技術が使われており、あらかじめWi-Fiアクセスポイントと端末で通信を行うタイミングを設定し、通信が無い時間帯には端末をWi-Fi送受信を一切行わない状態(スリープ状態)にすることで端末の消費電力を大幅に抑えることが可能となっています。これによりWi-Fiを利用しているときのバッテリーもちが従来よりもかなり向上することが見込まれます。
混雑時のパフォーマンス向上
Wi-Fi6は、宅内での利用はもちろんですが屋外での利用、特にスタジアムなどの密集地で利用することが想定された規格となっています。これを実現するためにいくつかの技術が使われており、その一つにデータを送信する際の新しい技術(OFDMA)の採用があります。このOFDMAという技術は、4G LTEでも利用されている技術であり、複数のユーザのデータ通信を効率よく行うことができるのです。
また、同時接続を行う為に搭載されている技術(MU-MIMO:Multi User- Multiple Input Multiple Output)も改善されています。通常、Wi-Fiは一つのアクセスポイントに対して複数の端末が接続して通信することはできますが、複数のユーザが同時に通信を行うことはできません。つまり、一つのアクセスポイントで誰か一人のユーザが通信しているときには、その他のユーザは利用しているユーザの通信が終わるまで待たなければならないのです。この待ち時間は非常に短い時間で切り替えられているのですが、ユーザが増えることで待ち時間が長くなり、結果として通信速度が遅くなってしまいます。
この問題を解決するための技術がMU-MIMO(マルチユーザーマイモ)であり、MU-MIMOにより複数端末の同時通信が可能となっています。このMU-MIMOはiPhoneXsやそれ以前のシリーズにも搭載されている802.11acにも実装されている機能なのですが、今回搭載されているWi-Fi6では改善が加えられています。
802.11acのMU-MIMOでは、アクセスポイントから端末向けの通信(ダウンリンク)では複数端末の同時通信が可能でしたが、端末からアクセスポイント向けの通信(アップリンク)は同時通信はできませんでした。Wi-Fi6では、アップリンクでも複数端末の同時通信が可能となっています。また、同時通信できる端末の数も802.11acでは4つでしたが、Wi-Fi6では8つに倍増しています。
これまでのWi-Fi規格とWi-Fi6の比較

Wi-Fiの各規格の特徴は以下のとおりです。
Wi-Fiは、これまでは速度向上を第一優先として進化してきており、今では理論値では相当なスピードが出るようになっていますが、一方で一つのアクセスポイントにユーザーが増えたり、他の電波による干渉などをうけると通信品質が悪化していました。Wi-Fi6では通信速度の向上と共に同時接続数の改善や省電力対応など、これまでの規格とはことなり通信品質やユーザ体験の改善が期待されています。
以下の比較表のとおり、Wi-Fiは802.11acから通信速度が大幅に向上していますが、802.11axと802.11acとの大きな違いの一つとして利用できる周波数があります。802.11acは確かに速度は大幅に向上したのですが、利用できる周波数が5GHzしかありませんでした。802.11axでは5GHzと共に2.4GHzにも対応しており、5GHzよりも遠くへ飛ぶ2.4GHzの対応により宅内やアクセスポイントの見通しの悪い場所では802.11acよりも利用しやすくなるでしょう。

高速でストレスのない通信をまずは自宅から

iPhone11やその他のWi-Fi6を搭載した機器でWi-Fi6の機能を使うためには親機であるアクセスポイントもWi-Fi6に対応する必要があります。 しかしながら、屋外のフリーWi-Fiやドコモ、au、ソフトバンクなどの通信事業者が提供しているWi-FiはまだWi-Fi6に対応しておらず、Wi-Fi6が使える場所はかなり限定的です。
一方で、Wi-Fi6はまだ最終的な仕様は確定していませんが技術仕様は確定している為、既に様々なメーカーからアクセスポイントが発売されています。iPhone11シリーズはせっかくWi-Fi6を搭載しているので、高速でストレスのない快適な通信を行うための一つの選択肢としてWi-Fi6のアクセスポイントを購入してみるというのもいいかもしれません。
