5Gを提供するネットワークにはいくつか構成がある
5Gのネットワーク構成にはいくつかの種類があります。当初はOption1からOption8まで8種類のネットワーク構成が存在したのですが、最終的には現実的に実現可能もしくは提供する可能性が高いOption1、Option2、Option3、Option4、Option5、Option7に関して標準化では議論されました。ただし、Option1とOption5はNRの構成ではなく4G LTEの構成であるため、5Gの構成としてはOption2,3,4,7の4種類になります。
上図のNRはNext Radioの略であり、5Gの無線システムを示します。EPCはEvolved Packet Coreの略で、4Gネットネットワークで利用されているコアネットワークです。5GCは5G Coreの略であり、5G用のコアネットワークです。
5GのOptionは4種類となっていますが、実際にはOptionによってはその中で更に構成がことなるものがあります。例えば、Option3では、Option3aやOption3xという構成があり、Option4やOption7においてもOption4aやOption7aという構成があります。これらの違いは、制御系の信号を4G LTE経由で送受信するのか、またデータ通信を4G LTE経由でコアネットワークと送受信するのか等、信号やデータの経路に依存します。
余談ですが、議論の対象外となってしまったOption6の構成は、NRと4G EPCが接続される構成であり、Option8は4G LTEとNRがともに4G EPCに接続される構成でした。いずれも4G EPCに接続される構成であり、この構成を採用した場合、将来においても古い4G EPC構成を利用し続ける必要があり、かつ4G LTEは古いアーキテクチャであるため5G関連の新機能すべてを実現することが難しくなります。

Non Standalone(NSA)とStandalone(SA)
5Gのネットワークの構成には、Non Standalone(NSA)とStandalone(SA)の2種類があります。上記図1に各OptionがNSAとSAのどちらにあたるのかを示していますが、5Gを提供するにあたり4Gネットワークに依存しているものをNSAと呼び、4Gネットワークに依存せず5Gネットワークのみで5Gの提供が可能なネットワークをSAと呼んでいます。(Option1,5は4Gネットワーク)
世界で始まっている5GはNSAのOption3
5Gのネットワーク構成にはNSAとSAの2種類があることを説明しましたが、2018年から世界で開始されている5Gサービスは2020年2月現在ではほぼ全てがOption3系の構成でサービスが提供されています(一部独自構成で提供されているものがあります)
先ほどの図を見てのとおり、Option3以外の構成ではすべて5GCが必要となりますが、5GCはEPCとは全く異なる新しいアーキテクチャとなり、この為各インフラベンダーは5GCの開発に時間を要しています。従って、5Gの早期開始には既存の4G EPCを利用するネットワークが適しており、その結果Option3の構成が採用されています。

SAの特徴と必要性
5GはOption3で既に提供が開始されていますが、ほとんどの通信事業者はStandalone(SA)構成のOpeino2への移行を目指しています。Option3でサービスが提供されているにもかかわらずOption2を目指す理由はどこにあるのでしょうか?
Option2への移行を目指す理由は多々ありますが、理由の一つとして古い4Gのネットワークアーキテクチャを将来にわたって利用し続けたくないということがあげられます。Option3では、5Gの通信は4G LTE経由となるため、通信速度や遅延は5G NRだけではなく4G LTEやEPCにも依存します。4Gのシステムはかなり以前から開発されたものであり5Gの特性をすべて実現することは難しく、その結果通信速度への影響や遅延への影響が出てしまいます。
一方NRや5GCは5G用に開発されたシステムである為、5Gの大容量通信および低遅延に対応したシステムです。従って、これら5Gの特徴を活かしたサービスを提供するためにはOption2のようにStandalone(SA)構成のネットワークが必要になるのです。

5GCの特徴
図2に示したとおり5GCは4G EPCとは全く異なるアーキテクチャになっています。5GCを導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか?
一つ目はネットワークスライスです。ネットワークスライスとは、ネットワーク機器を仮想的に分割し用途や通信の特徴によってネットワークを使い分ける技術です。
5Gではこれまでとは異なりスマホ以外のデバイスが多数接続されます。これらのデバイスは用途やサービスによって特徴が異なる為、それぞれの特徴を実現するためのネットワークが必要となります。ネットワークスライス技術を利用することでネットワークを仮想的に分離し、サービスやデバイスに合わせたネットワークを構築することが可能となります。
例えば超低遅延が必要となるデバイスに対しては、超低遅延を実現する専用のネットワークに接続させ、センサー等のIoT系のデバイスで通信量が小さく頻度が低いデバイスに関してはIoT専用のネットワークに接続したりすることが可能となるのです。
ネットワークスライスという技術は新しいものではなく4Gネットワークでも実現は可能ですが、4Gネットワークでは利用可能なスライスの数に制限があり、あまり使い勝手がよくありませんでした。5Gではあらかじめ3GPP標準にスライスに関する規定が盛り込まれている為、多数のスライスネットワークを提供することが可能となっています。
その他、5GCを導入することによるメリットとしては、セルラー以外の無線機器、例えばWi-Fiなどを5GCへ接続することが可能となります。また、5GCのアーキテクチャではNEF(Network Exposure Function)と呼ばれるノードが追加され、これによってセルラーで利用している位置情報や認証機能を外部の企業に提供することが可能となります。
5GCによる新たな機能やメリットとしてはQoSの拡張などその他にも多々あり、これらのメリットおよび5GCの性能を最大限引き出す為に各通信事業者は早期のOption2の展開を目指しています。
