マンションや戸建てで利用しているWi-Fi接続ですが、思ったほど通信速度が出ない場合や通信が安定しない場合があります。
この記事では、宅内インターネット接続が遅い主な理由と、その解決策の一つである「Wi-Fiメッシュ」について詳しく解説しています。
宅内のインターネット速度が出ない3つの大きな理由
2020年以降、コロナ禍において外出規制やテレワークの推奨などにより自宅でインターネットに接続する機会が大幅に増えました。宅内でのインターネット接続では、スマホなどのモバイル機器を活用するケースもありますが、多数のユーザは自宅に光ファイバーなどのブロードバンド回線と呼ばれるインターネット回線を準備し、Wi-Fiを介してそのインターネット環境に接続していると考えられます。
コロナが蔓延する前は、パソコンなどの宅内でのスマホ以外の機器のインターネット接続においてもスマホ同様にモバイル回線を利用するユーザがたくさんいましたが、在宅時間が増え、宅内での通信量も増大したことにより、宅内でのインターネット接続をモバイル回線からブロードバンド回線に切り替えるユーザが増えています。
このように、ブロードバンド回線の導入によって宅内のインターネット環境は改善されてきていますが、それでも通信速度が遅い場合があります。その大きな理由は、「ブロードバンド回線の容量・速度不足」「近隣のWi-Fiとの電波干渉」「宅内のWi-Fi接続問題」の3つに集約されます。

ブロードバンド回線容量・速度不足
宅内インターネットの通信速度が遅い理由の一つとして、利用しているブロードバンド回線やその環境が十分ではないということが挙げられます。
日本国内では、2021年3月時点で固定ブロードバンドの契約数は4,200万件に達しています。
現在の固定ブロードバンドの主流は光ブロードバンド(FTTH)であり、2020年3月末時点での日本全体での世帯カバー率が99.1%となっていますが、一方で2,000年頃に一気に普及したDSL(ADSLやVDSLなど)も未だに100万世帯以上が契約をしており、DSL環境では通信速度はそれほど期待はできません。
また、今でこそ光ブロードバンド回線(FTTH)が主流となっていますが、10年前の2012年時点ではFTTHの契約数は2,000万程度にとどまっています。2012年やそれ以前に建設されたマンションでは、マンション竣工当初は光ブロードバンド回線(FTTH)は整備されておらず、後からFTTHが導入されているケースが多くなっていますが、この場合、NTTなどの通信事業者の局舎からマンションまでは光ケーブルが敷設されているものの、マンション内の各宅内への配線は以前のままメタル(銅線)を利用したものが多く、これが原因で通信速度が大幅に制限され50-100Mbps程度の速度しか出ていません。
建設時からFTTHが準備されているような比較的新しいマンションにおいても、数百世帯が住むような大型のマンションに対して1GbpsのFTTHしか引いていない場合があり、利用者数に対して回線容量が十分ではなく常時回線が混雑し、期待しているような通信速度が出ない場合もあります。
以上のようにブロードバンド回線が通信速度低下の主な原因となっているようなケースにおいては、ブロードバンドの契約を見直すことで問題が解消される可能性があります。また、最近では各宅内への配線に光ケーブルを利用していないマンションにおいても、G.fastと呼ばれる新しい規格の製品を導入することで通信速度が大幅に改善されることが期待されています。
近隣のWi-Fiとの電波干渉
宅内インターネットの通信速度が遅い原因として、近隣のWi-FiアクセスポイントやWi-Fiに接続している機器と電波が干渉しているということも挙げられます。
テレワーク人口が爆発的に増えたことや在宅時間が長くなったことにより、宅内でWi-Fiを利用して仕事をする人や宅内でインターネットを利用する時間が大幅に増えました。Wi-Fiは様々な機器を簡単にインターネットに接続するツールとして非常に便利ですが、一方でWi-Fiが利用している電波(周波数)には限りがあります。
Wi-Fiは、利用できる周波数に制限がある為、各機器が通信を行うタイミングをずらしたり、利用する周波数を変えることによって複数の機器で共用されています。ところが、昨今のWi-Fiユーザの増加により、これらの制御だけでは各機器や外部からのWi-Fiの電波干渉を回避できず、通信速度が大幅に低下しているケースがあります。
以下は、ある場所でモニターしたWi-Fiの電波状況です。
グラフの一つの山が1つのWi-Fiアクセスポイントを示していますが、このとおりWi-Fiの電波は無数に飛び交っており、限りあるWi-Fiのチャンネルを多数のWi-Fiアクセスポイントが共有している為、電波干渉が起こります。これらすべての電波干渉を防ぐことは容易ではありませんが、最新のWi-Fi6規格に対応したWi-Fiアクセスポイントであれば、ある程度の干渉を回避することが可能となり、通信速度の改善が見込まれます。

宅内のWi-Fi接続問題
宅内インターネットの通信速度が遅い原因として、そもそも家の中でWi-Fiの電波が十分に飛んでいないということも挙げられます。
日本国内でWi-Fiを利用する場合、電波法で規定されている範囲内の出力で電波を出す必要がありますが、日本では海外よりも出力の最大値が低く抑えられています。従って、ワンルームのアパートやマンションでは問題なく使えるWi-Fiであっても、3LDKなどの家族向けのマンションや戸建てではWi-Fiの電波が宅内全体に届かない場合があります。特に3階建てのアパートでは場所によって全くWi-Fiの電波をつかめない場所も出てくる場合があります。
最近の戸建てやマンションでは、あらかじめブロードバンド環境が準備されており、FTTHなどのブロードバンド回線は宅内の複数個所から接続用のコンセントが出ていますが、接続できるWi-Fiアクセスポイントの親機は、この複数あるコンセントのうちから1ヶ所選択することになります。コンセントの位置が宅内のちょうど中心で、部屋の壁や家具などを隔ててもWi-Fiの電波が各部屋に十分いきわたる場所にあればよいのですが、コンセントの位置によっては、部屋までWi-Fiの電波が届かない場合もあります。
このような問題が発生した場合の改善策の一つとして、Wi-Fiメッシュの導入が考えられます。
Wi-Fiメッシュで接続問題を解消
Wi-Fiは、通常は一つのWi-FiアクセスポイントがWi-Fiの電波を発し、その電波が届く範囲で利用されます。この場合、Wi-Fiの電波が届く範囲内であれば、それぞれの機器は通信を行うことが可能となりますが、電波が届かない範囲もしくは電波が弱いエリアでは、通信ができなかったり、通信速度が極端に遅くなります。
昨今、Wi-Fiを利用したインターネット接続やサービスが激増しており、もはや一つのWi-Fiアクセスポイントではすべての機器の接続を賄えなくなってきました。また、Wi-Fiを利用するエリアもスポット的なエリアから面的なエリアへと広がりを見せています。
これらの課題を解決する方法の一つがWi-Fiメッシュです。Wi-Fiメッシュとは、複数のWi-Fiアクセスポイントを導入し、アクセスポイント同士がお互いに通信をして最適なWi-Fi環境を提供する仕組みです。各Wi-Fiアクセスポイントは常に通信をして互いのアクセスポイントの状態を共有しており、Wi-Fiに接続される機器の通信速度や品質が最大になるように、各アクセスポイントが利用する周波数やチャンネル、機器が接続するWi-Fiアクセスポイントを自動で切り替えたりします。
例えば、以下のような3階建ての戸建てでWi-Fiアクセスポイントを1階に設置した場合、Wi-Fiの電波がすべての部屋に行きわたらない場合があります。解決策として、Wi-Fiアクセスポイントを複数導入して各アクセスポイントを中継器として利用する方法が以前からありますが、この場合、利用するアクセスポイントを場所や機器ごとにあらかじめ自分で決めておく必要があり、必ずしも最適なWi-Fi環境を得られるわけではありません。
Wi-Fiメッシュでは、すべてのアクセスポイントが通信しながらお互いの状況を把握しており、Wi-Fiに接続する機器に対して一番良いWi-Fi環境を提供できるアクセスポイントに接続させることができる為、従来のWi-Fi環境と比較して通信速度が大幅に改善され通信品質も安定します。また、これらの制御はアクセスポイント同士が自動で行う為、ユーザは全く意識することなく従来のWi-Fi環境と変わらない感覚で利用することができます。
Wi-Fiメッシュの標準「Wi-Fi EasyMesh」と機器の普及
昨今、Wi-Fiメッシュが注目され始めている理由の一つとして、Wi-Fiメッシュが標準化されたことが挙げられます。Wi-Fiメッシュという技術は以前からありましたが、アクセスポイント同士の通信方法や規格はメーカー独自で開発されていた為、対応するWi-Fi機器も限定的でした。
ところが、Wi-Fiメッシュが「Wi-Fi EasyMesh」として標準化されると、Wi-Fiアクセスポイントメーカーは積極的にWi-Fi メッシュに対応した機器を発売し、その結果一気に広まってきました。
Wi-Fiメッシュ機能をもつWi-Fiアクセスポイントは、複数のメーカーから発売されています。
バッファローは、標準のWi-Fi EasyMeshを積極的に取り入れており、最新機種はもちろん、2019年以降に発売されたすべてのWi-Fi6対応機器においてWi-Fi EasyMeshに対応させる予定です。エレコムは、Wi-Fiメッシュが標準化される前から「e-mesh」と呼ばれる独自のWi-Fiメッシュ機能を搭載した機器を多数発売し、今後もe-mesh対応機器の発売が期待されています。TP-LINKも以前よりWi-Fiメッシュに力を入れており、Wi-Fi EasyMeshには対応していませんが、「Deco」と呼ばれる独自仕様の機能を実装した機器を発売しています。その他のメーカーも独自仕様ながらWi-Fiメッシュに対応した機器を発売しており、今後ますますWi-Fiメッシュの用途が広がってくることが期待されます。