見えてきた5Gスタンドアローン(SA方式)の用途

5G

5Gの本命とされているスタンドアローン(SA)方式とはどのようなものなのでしょうか。また、世界各国の通信事業者はSA方式をどのように活用していくのでしょうか。この記事ではSA方式の解説、用途そして日本におけるSA方式の展望について解説しています。

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世界で2億以上、国内でも500万以上が稼働している5G

2018年10月に米国のベライゾンが世界で初めて5Gサービスを開始し、2年半が経過しました。その間、多数の国で5Gが開始され、日本でも他の先進国から1年以上遅れた2020年3月に5Gサービスが開始されています。通信の業界団体であるGSMAによると、2021年3月時点で64ヵ国で約153の通信事業者が5Gサービスを開始しているようです。

5Gは中国が世界を牽引し、2021年3月末時点ですでに中国国内で2億弱の5G加入者が存在しています。そして、同じくアジアで勢いがある韓国でも約1,500万の5Gが稼働し、日本での5Gも2021年5月時点で600万以上となっています。

5Gは、2010年に4Gが開始された時と比較して非常に注目を浴びており、かつ各国において5Gへの投資や対応が比較にならないくらい積極的になっています。その理由の一つとして、5Gは単純に4Gを高速化した技術ではなく、「高速・大容量」「超低遅延」「多数端末接続」の3つの特徴をもった新しい技術だからです。なかでも「超低遅延」「多数端末接続」はこれまでのモバイル技術では実現できなかった特徴であり、この二つの特徴をあらゆる産業に活用することが期待されていることから、5Gは非常に注目を浴びています。

Non-Standalone(NSA)方式とStandalone(SA)方式

日本でも普及しつつある5Gですが、5GにはNon-Standalone(NSA)方式とStandalone(SA)方式の二つの方式が存在し、日本を含めて世界のほとんどの国で提供されている5GはNSA方式です。

NSA方式は、4G LTEのネットワークを活用して5Gサービスを提供するアーキテクチャになっています。以下の図のとおり、5Gの基地局(NR)は4Gの基地局(LTE)と4Gのコアネットワークに接続されており、5Gデータは4Gネットワークを介して提供されます。NSA方式の大きなメリットは、既に通信事業者が整備した4G設備を活用することで5Gの展開を一気に行うことが可能になる点です。従って、多くの通信事業者は5Gエリアの拡大を急ぐためにNSA方式で5Gサービスを開始しています。

一方、SA方式は、5G専用のネットワークアーキテクチャとなっています。SA方式においては、5Gシステムは完全に独立しており、4Gシステムに依存することはありません。NSA方式ではコアネットワークとして4GのEPCを共有できますが、SA方式では5G専用のコアネットワークである5GCが必要となります。

5Gサービスの本命スタンドアローン(SA)方式とは?いつから始まる?
2018年から米国や韓国で5Gサービスが開始され日本でも2020年3月から5Gが開始されたが、これらの5Gは本当の5Gではない。この記事では、5Gの本命と言われているStandalone(スタンドアローン)方式の特長そして何故SA方式が必要なのかをわかりやすく解説。
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5Gサービスに不可欠なSA方式

多くの通信事業者がNSA方式で5Gを開始していますが、昨年から徐々にSA方式を開始する通信事業者が増えてきました。米国のT-Mobileは世界で初めて大規模なSA方式を導入しており、その他にも中国のChina Mobile、China Telecom、China Unicom、シンガポールのSingtel、ドイツのVodafone、カナダのRoger、クウェートのSCT Kuwaitなど大手通信事業者のSA方式導入が進んでいます。

既にNSA方式でサービスが開始されているにもかかわらず、何故SA方式を導入するのでしょうか?

それは、先ほど説明した5Gの3つの特徴を実現するためです。NSA方式では一部で4G LTEを利用するため「高速・大容量」「超低遅延」「多数端末接続」の3つの特徴を最大限に活かすことができません。高速通信に関しては周波数帯域を多数利用してある程度実現することはできますが、超低遅延や多数端末接続の実現にはSA方式は不可欠です。

例えば、超低遅延の環境を構築するためには5G SA方式による新しいアーキテクチャを利用するということはもちろんですが、それ以外にも遅延を抑えるための技術の利用が必要となるケースがあり、その一つがMEC(Multi-Access Edge Computing)です。MECとは、ユーザとインフラ/アプリケーションの物理的な距離を極力短くし超低遅延を実現するというコンセプトです。

KDDIやVerizonが採用するAWSの5G MEC 「Wavelength」とは?
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このMEC環境の構築にはいくつかの技術が必要であり、中でもネットワークスライシングと呼ばれる技術は不可欠になりますが、ネットワークスライシングを実現するためにも5G SAのアーキテクチャが必要となるのです。

5Gで注目される技術ネットワークスライスとは?
5Gと共に注目を浴びているネットワークスライスとはどういうものなのでしょうか?この記事ではネットワークスライスがどのようなものであり、何故必要なのか、そしていつ頃ネットワークスライスの提供が始まるのかについてわかりやすく解説しています。

また、MEC以外でも、例えば様々な産業で5Gを有効活用する為に必要となるマイクロサービスアーキテクチャや多数接続技術などがSA方式により実現可能となる為、通信事業者はこれらのサービスを提供するためにもSAの導入を急いでいるのです。

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SA方式は「リアルタイムオンラインゲーム」「スマートファクトリ」「ローカル5G」で活用

世界ですでにSA方式を導入している通信事業者は、SA方式をどのように活用しているのでしょうか。

2021年5月現在では、世界で10社近くの通信事業者がSA方式を導入していますが、「リアルタイムオンラインゲーム」「スマートファクトリ」「ローカル5G」の3つのユースケースでの利用が期待されています

1つ目の「リアルタイムオンラインゲーム」ですが、5Gのサービス開始後、5Gを活用したオンラインゲームプラットフォームサービスが注目され、このプラットフォームを活用したリアルタイムのオンラインゲームの提供にSA方式の利用を検討している通信事業者が増えてきています。米国ではT-mobile以外の通信事業者はまだSA方式を開始していませんが、例えば最大手のVerizonはSA方式の用途としてゲームプラットフォームを挙げています。また、韓国も同様で、韓国の大手通信事業者3社はリアルタイムオンラインゲームプラットフォームでのSA方式利用を想定し、既にSA方式のネットワーク設備の準備がほぼ整っています。ただし、SA方式によるリアルタイムオンラインゲームの提供には、SA方式に対応したSIMカードやスマホ本体が必要となり、現時点ではSA方式に対応したスマホがそれほど多くない為、普及していくにはもう少し時間がかかることが見込まれます。

2つのの「スマートファクトリ」は、工場をデジタル化によって生産性や効率性を挙げるというコンセプトですが、これを実現する技術の一つとして5Gが挙げられています。例えば、工場内のすべての設備をネットワークに接続し、設備の稼働状況はもちろん生産した製品の品質やエラーの検知などすべてデータ化して遠隔で自動でリアルタイムに効率よく監視をすることが期待されています。これを実現するためには、多数のデバイスが同時にリアルタイムにネットワークに接続する環境が必要であり、これを実現する技術として5G SAの利用が想定されています。実現するためには、SA方式に対応した5Gのネットワーク設備だけではなく、工場内の設備に取り付けるIoTデバイスの準備も必要となりますが、IoTデバイスに必要なモデムを開発する世界有数の企業クアルコムもSA方式に対応したIoT向けのチップセットの開発に力を入れていることもあり、この領域は今後一気に加速していくことが見込まれます。

3つ目は「ローカル5G」です。ローカル5Gとは、ある特定のエリア限定で大手通信事業者以外の企業が5Gを提供するサービスです。

今注目のローカル5Gとは?その特徴や使える周波数は?
ローカル5Gとは今話題の5Gとは何が違うのか?この記事では、ローカル5Gの特徴、ユースケース、利用可能な周波数、国内でいつごろサービスが始まるのかについて解説。

ローカル5Gの用途はいくつかあり、先に例として挙げたスマートファクトリの他、学校や企業内のWi-Fiを代用するネットワーク、災害などの緊急時のネットワーク、農業や林業での監視用ネットワーク、企業や病院などでの遠隔操作など、多くのユースケースが期待されています。

このローカル5G環境を提供するネットワークにおいてSA方式を利用することが検討されています。ローカル5Gにおいても5G同様に当初はNSA方式での実証実験が多く行われましたが、現在は5Gの特徴を最大限に活かすためにSA方式でのローカル5G提供を検討している企業が増えています。2021年1月時点で既に40社以上の企業がローカル5Gの免許申請を行うなど、ローカル5Gへの期待は大きくなっています。ただし、SA方式は3GPPでの標準化がNSA方式よりも遅れたことにより技術的な成熟度が十分ではないこともあり、ローカル5GにSA方式を取り入れている企業はまだ少数にとどまっています。

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2021年後半には国内でもSA方式開始

SA方式の提供は5Gの特徴を活かすためには不可欠ですが、SA方式は従来の4G LTEのアーキテクチャから大きく変更されたことで通信事業者各社は導入に時間がかかっています。 日本国内では、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの大手通信事業者が2021年の後半にはSA方式を導入することを発表しています。日本では、5Gが開始されてまだ1年ちょっとしか経過しておらず、5Gが利用できるエリアもかなり限定的ですが、それでも基地局建設は急ピッチで進められ、2022年3月時点では各社とも20,000から50,000局の5G基地局を全国に展開する計画になっています。また、5G対応端末の発売にも積極的であり、5G開始1年で国内では600万以上の5G加入者が稼働するなど通信事業者各社の5Gへの取り組みには勢いがあるので、2021年後半から開始されるSA方式と合わせて5Gサービスの本格的な幕開けが期待されます