KDDIやVerizonが採用するAWSの5G MEC 「Wavelength」とは?

5G

5GではMECが期待されており、世界3大クラウド事業者であるAmazon、Google、MicrosoftによるMECサービスは日本だけではなく世界でも注目されています。中でもAWSは「AWS Wavelength」という名称でMECに積極的であり、既に米国、韓国、日本でサービスが開始されています。

この記事では、AWS Wavelengthの概要や特徴をわかりやすく解説しています。

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5G MECとは

5Gには以下に示すようなの3つの特徴があります。

これらの特徴は5Gのネットワークで実現できますが、より高品質で安定した超低遅延サービスを実現するソリューションとしてMulti-access Edge Computing (MEC)があります。

通常のモバイルネットワークでは、全国の基地局が認証システムや位置情報管理システムなどを収容しているコアネットワークと呼ばれるネットワークに集約されますが、このコアネットワークは全国で数拠点から十数拠点程度しかありません。従って、基地局が設置されている場所によっては、基地局からコアネットワークまでの距離が数百キロメートルになる場合があります。また、コアネットワークの先に接続されるアプリケーションサーバは、その先のインターネット上や企業ネットワーク上にあり、コアネットワークとアプリケーションサーバの距離も数百キロメートルに及ぶ可能性があります。

基地局、コアネットワーク、アプリケーションサーバがそれぞれ数百キロメートル離れていても、遅延は数百msec程度であり、スマホによるデータ通信には大きな影響はありませんが、リアルタイムゲームや遠隔医療など超低遅延が要求されるサービスにおいては、数百msecの遅延が大きな影響を及ぼします

そこで、この物理的な距離による遅延を極力小さくするために考え出されたソリューションがMECになります。通常はコアネットワークの先にあるアプリケーションサーバをコアネットワークと同じ位置に構築したり、場合によっては以下のとおりコアネットワークとアプリケーションサーバの両方を基地局の近くに構築したりします。これをMECと呼んでいます。

MECは、先ほど説明した超低遅延の実現の他に伝送路コストの削減というメリットがあります。5Gではデータ通信速度が高速になることで4K/8K動画などの大容量データが頻繁にやりとりされることになります。これらの大容量データを送受信するためには、基地局とコアネットワーク間の光ファイバーなどの伝送路やコアネットワークからアプリケーションサーバ間で広帯域の伝送路が必要となり、すべての伝送路において超遅延を実現しようとした場合には伝送路のコストが膨大となってしまいます。しかし、MECにて基地局近くにコアネットワークとアプリケーションサーバを置くことで、この伝送路コストは大幅に削減できます

例えば、スタジアム内におけるリアルタイムでの試合状況配信では、スタジアム内に簡易的なコアネットワークとアプリケーションサーバを構築することで伝送路を準備する必要がなく、超低遅延で高品質なサービスを実現することが可能となります。

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世界3大クラウド事業者のMECソリューション

MECでは、モバイルネットワークのコアネットワークに近い位置にアプリケーションサーバを設置しますが、このアプリケーションサーバを構築するプラットフォームとして近年ではクラウドを用いることが多くなっています。そこで、世界的なクラウド事業者であるAmazon、Google、Microsoftの3社は、それぞれのクラウドソリューションであるAWS、GCP、AzureをMECに利用するソリューションを発表しています

クラウドで世界No.1シェアのAWSは、「AWS Wave length」、Googleは「Anthos for Telecom」、Microsoftは「Azure Edge Zones」というサービスをそれぞれ開始しています

世界3大クラウド事業者 AWS、Google、Microsoftはテレコムに注力
最近、パブリッククラウドを展開するAWS、Google、Microsoftは積極的にテレコム業界へのかかわりを増やしており、その中でも特にMECに関しては3社とも注力をしています。この記事では、世界3大クラウド事業者であるAWS、Google、MicrosoftがテレコムやMECに対してどのような取り組みをしているかに関して解説をしています。

シェアNo.1のAWSを活用したMEC「Wavelength」の特徴

AWSのWavelengthの構成は以下のようAWSのプラットフォームが通信事業者のコアネットワークと同じデータセンターに構築されます。このように、通信事業者のデータセンター内にAWSを構築することでトラフィックがモバイルネットワークの外へ出ることが無くなる為、超低遅延を実現するだけではなくセキュリティも高くなります

では、AWS Wavelengthではどのようにして通信事業者や実際に構築するデータセンター(場所)を特定するのでしょうか?

AWS利用者は、通常リージョンと呼ばれる地域ごとに構築されたデータセンターにアプリケーション、ストレージなどを構築します。リージョンは、2021年1月現在で世界で24カ所あり日本には東京リージョンと大阪リージョンがありますので、日本国内にアプリケーションサーバなどを構築したい場合には、東京リージョンか大阪リージョンのどちらか、もしくは冗長構成を考慮してその両方を選択することになります。

MECのWavelengthを利用する場合は、利用する通信事業者とデータセンターの場所を選択する必要があり、それを「Wavelength Zone」から選択します。AWSは、Verizon、Vodafone、SKテレコム、KDDIの4つの事業者と提携しており、Wavelength Zoneはこの4つの通信事業者のデータセンターから選択することになります。2021年1月現在では、以下のWavelength Zoneがあります。

日本でWavelengthを利用する場合には、KDDIが提供している東京のデータセンターをWavelength Zoneで指定する必要があります。これにより、AWSの環境をKDDIのコアネットワークと同じ東京のデータセンター内に構築することが可能となり、ユーザからのトラフィックはモバイルネットワークを出ることなくやり取りができる為、超低遅延かつセキュリティの高い通信が可能となります。

このように、AWS WavelengthはAWSにてリージョンとWavelength Zoneを指定することで利用することが可能であり、これらの作業はAWS上で実施可能であるため、Wavelengthを開始する際に通信事業者と契約をすることなく簡単にサービスを開始することが可能であることが特長の一つとなっています。

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AWS Wavelengthのユースケース

MECは、超低遅延サービスで利用される為に考えられたソリューションですが、AWSでは具体的に以下のような使い方を想定しています。中でもライブ動画ストリーミングでは、国内外のスタジアムにてサッカーや野球などのリアルタイムでアングルが選択可能な動画配信の実証実験が行われており、非常に期待がされるユースケースです。その他では、リアルタイムのゲームプレイでは、KDDIがパイロット事例として挙げ、米国のVerizonもリアルタイム系のゲームを主なユースケースとして挙げるなど、こちらも期待されているユースケースです。

使い慣れたクラウド環境を簡単に構築可能なAWS Wavelength

AWSは世界で最もシェアの高いクラウドサービスであり、多数の企業が利用しています。この使い慣れたクラウドプラットフォームをMEC環境においても同様に利用でき、かつ通信事業者との契約を気にすることなく環境構築が可能であるという点で、MECを開始するハードルがかなり低くなっています

日本では5Gは2020年3月に始まったばかりでエリアもかなり限定的であり、かつKDDIも2020年12月にWavelengthを開始しているのでWavelengthが普及するには多少の時間がかかると想定されますが、MECは5Gで期待されるユースケースの一つであるため、5Gのエリアが広がりとともに一気に普及していくことが期待されます