2018年から米国や韓国で5Gサービスが開始され日本でも2020年3月から5Gが使えるようになりましたが、実はこれらの5Gは本当の5Gではありません。
この記事では、5Gの本命と言われているStandalone(SA:スタンドアローン)方式とはどのようなものなのか、そしてなぜSA方式が必要なのかをわかりやすく解説しています。
4G LTEを活用したNSA方式と5G専用のSA方式
2020年9月現在、大多数の通信事業者はNSAを採用
5Gを提供するネットワーク(インフラ)には、Non-Standalone(NSA)方式とStandalone(SA)方式があります。2020年9月現在、5Gサービスを開始している大多数の通信事業者はNSA方式を採用しており、SA方式を利用している通信事業者は米国のT-MobileやフィンランドのElisaなどごく少数です。日本のドコモ、au、ソフトバンクもNSA方式で5Gを提供しています。


NSA方式とSA方式の違い
NSA方式とSA方式はどのような違いがあるのでしょうか。以下はNSA方式とSA方式のネットワークアーキテクチャの比較です。
NSA方式は、4G LTEのネットワークを活用して5Gサービスを提供するアーキテクチャになっています。上記の図のとおり、5Gの基地局は4Gの基地局と4Gのコアネットワークに接続されており、5Gデータは4Gネットワークを介して提供されます。NSA方式の大きなメリットは、既存4G設備を利用することで5Gの展開を早くすることができるという点です。従って、多くの通信事業者は5Gエリアの拡大を急ぐためにNSA方式で5Gサービスを開始しています。
一方、SA方式は、5G専用のネットワークアーキテクチャとなっています。5Gシステムは完全に独立しており、4Gシステムに依存することはありません。SA方式では4GのEPCとは異なる5G専用のコアネットワークである5GCが必要となります。
EPCと5GCの違い
以下の図はEPCと5GCを示しています。
EPCと5GCを比較すると、5GCのシステム数がかなり多くなっており大きな違いがあるように見えますが、基本的な機能についてはEPCも5GCも大きな差分はありません。例えば、EPCは、MME、SGW、PGW、PCRF、HSSで構成されていますが、MMEと類似した機能は5GCのAMFとSMFに実装され、SGWやPGWは5GCのSMFとUPFに同様の機能が実装されています。
EPCと5GCの違いの一つは、EPCではMMEとHSS、MMEとSGWなど連携が必要なシステムが1対1で接続されているのに対し、5GCではすべてのシステムがお互い通信できるようなService Based Architecture (SBA)が採用されています。これによるメリットは、今後新たなサービスを提供する際に新しいシステムが追加されたり、新しいシーケンスが追加された場合でも柔軟な対応が可能であるということです。
EPCと5GCの違いとして、5GCではクラウドネイティブ前提であるということが挙げられます。EPCにおいても既に仮想化を導入している通信事業者もありますが、この仮想化は既存の4G EPCの機能を仮想化環境に移行しただけです。つまり、もともとクラウド前提ではなく通信インフラベンダーの専用ハードウェアで動作する専用ソフトウェアで開発されたシステムを仮想化したものであり、仮想化を前提として設計になっていない為、仮想化のメリットを最大限に活かせていないケースが多いのです。
一方、5GCでは、各インフラベンダーはクラウドで利用することを前提として新たにシステム開発を行っている為、クラウドに最適化された設計となっています。多くの通信事業者は、5GCをコンテナ環境で利用することを計画しており、これにより5Gサービス提供のライフサイクルを短縮させたり、運用コストを下げたりすることが可能となります。
5Gサービスを本格展開するためにはSA方式は必要不可欠
5GサービスはNSA方式でも提供可能であるにもかかわらず、何故SA方式が必要なのでしょうか?
SA方式が必要な理由は、SA方式を導入しない限り5Gの特徴を活かしたサービスが提供できないからです。
5Gには、「高速大容量通信」「超低遅延」「多数端末接続」という3つの大きな特徴がありますが、NSA方式では「高速大容量通信」しか提供できません。5Gをこれまでの4Gの延長として単なる高速通信システムとして提供するのであればNSA方式でも問題はありませんが、「超低遅延」「多数端末接続」の実現にはSA方式が必要なのです。NSA方式は、4Gシステムを活用するため「超低遅延」や「多数端末接続」を実現する際に4Gシステムが足かせとなってしまうことが大きな要因です。

5Gは、通信市場のみならず様々な市場で期待されていますが、期待されている大きな理由は、これまで実現が難しかった超低遅延通信や多数端末の同時接続が可能となるからです。
例えば、ゲーム業界においてはARゲームでの利用が期待されており、実現にはリアルタイムに情報をやり取りする超低遅延通信環境が必要であり、あるいは工場においては全てをネットワークに接続するスマートファクトリーでの利用が期待され、特定エリアにおいて多数のデバイスが接続できる環境が必要となります。
日本は2021年からSA方式開始
5Gの大きな3つの特徴である「高速大容量通信」「超低遅延」「多数端末接続」を提供する為に不可欠なSA方式ですが、2020年8月に世界で初めて米国のT-mobileが提供を開始しました。その他では、フィンランドの通信事業者であるElisaもSAを導入しており、2020年度内に韓国や中国でもSA方式が導入される見込みです。

日本では、ドコモとauが2021年度にSA方式を導入する計画となっており、SA方式の導入までまだ時間がかかりそうですが、各産業からの期待が大きいこともあり、SA開始後には様々な5Gのサービスやユースケースが一気に広がっていく可能性があります。