日本の先を行き、世界の5Gをリードする中国

5G

2018年10月に米国で世界で初めて5Gが開始されてから間もなく2年が経過しようとしています。そして、2019年の4月に韓国で5Gスマホが発売されてから1年ちょっと経過していますが、中国はそこから少し遅れて5Gサービスを開始しました。中国は米国や韓国よりも1年ほど遅れて5Gサービスを開始したのですが、サービス開始後の中国の勢いはすごく、今となっては世界をけん引しています。

この記事では、中国の5Gが何故勢いがあり、2020年6月末現在でどのような状況であるかを説明しています。

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5Gに積極的な中国政府と通信事業者

中国の5Gサービスは、2019年11月にChina Mobile、China Unicom、China Telecomの3社によって一斉に開始されました。中国は5Gに非常に積極的であり、政府を中心に世界をリードする立場に立つことを目的に準備を進めていました。5Gには、既存の4G設備の一部を流用するNon Standalone(NSA)方式と5G設備単体で動作するStandalone(SA)方式の2種類があり、ほとんどの通信事業者はNSA方式でサービスを開始していますが、中国ではサービス開始当初から5Gの特徴を最大限活かせるSA方式で国内に一気に基地局を展開することも検討がされていたほどです。最終的には、SA方式に関しては、標準化の進捗や既存サービスとの連携等、いくつかの理由で困難であることが判明し、他国同様にNSA方式でサービスを開始していますが、それでも2020年内にSA方式を導入する計画もあり、その勢いは増しています。

また、国民の5Gに対する関心も非常に高く、サービスを開始する前から既に1,000万人以上の人が5Gサービスを予約してたほどです。中国は米国や韓国などから約1年遅れての5Gサービス開始となりましたが、サービス開始当初から約50都市がサービスエリアの対象となっており、通信事業者3社の料金プランも複数準備されるなど、米国とはことなり5G加入者を積極的に獲得していくという姿勢が伺えます。

豊富な5Gスマホ機種が5G加入者を爆発的に増やしている

先ほど説明したとおり、中国ではサ5Gサービス開始前から1,000万件以上の予約があり、他国と桁違いの加入者数で5Gサービスがスタートしていますが、その後も加入者数は順調に伸び、2020年4月末時点で中国全体の5G加入者数は6,500万人以上と言われています。このうちChina Mobileの加入者が多数を占め、4月末時点でのChina Mobileの加入者数は約4,400万に達し、更にコロナ禍の厳しい状況においても5G加入者数は伸び続け、毎月約1,000万の新規5G加入者を獲得しています。

中国においてこれほどまでに5G加入者が伸び続けている大きな理由の一つは、豊富な5G対応スマホの供給です。他国と比較すると手ごろな5G対応スマホが多数あり、例えば中国最大手のChina Mobileでは既に50を超える5G対応スマホ機種を販売していますが、これらの5Gスマホを40,000円台から購入することができるのです。日本では5G端末の価格は軒並み100,000円を超えており、この日本の状況と比較しても、40,000円台という価格がいかにリーズナブルであるかがわかります。

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5G加入障壁の低い低価格プランの提供

China Mobile、China Unicom、China Telecomの3社は、5G向けの料金プランをいくつか提供しています。基本的にはデータ通信量ごとに料金プランを提供していますが、3社とも最低データ容量が30GBであり、最も多いデータ量でも300GBまでとなっています。日本、米国、韓国では、5Gの高速大容量通信向けにデータ使用量無制限プランを提供していますが、中国では3社とも上限を設けているところが大きな特徴です。

また、最安値料金が各社とも2,000円未満と安く、この料金体系が5G移行への障壁を低くしている理由の一つです。日本におけるドコモ、au、ソフトバンクの5G料金プランは、以下のとおり3,000円台から5Gサービスを利用することが可能となっていますが、利用できるデータ容量が1GBと5Gを利用する意味が無いような容量しかありません。料金を2,000円未満に抑えながらも30GBまでデータ通信が可能なプランを提供いている中国が如何に5G加入者獲得に積極的かがわかります。 最近では更に5G加入への移行を促進する為、中国政府からの通達もあり、3社は正規料金からさらに割り引くキャンペーンの展開も行っています。

圧倒的な基地局数で5Gを面展開

5Gの新規加入者を増やすためには、5Gが利用できるエリアの拡大が不可欠です。既に数千万の加入者を抱えている中国の5Gエリアはどのようになっているのでしょうか?

中国は5Gサービスを開始する前から積極的に5G基地局建設を進めてきました。2019年11月にサービスを開始した時点で、最大手のChina Mobileは既に50,000局の基地局を展開しています。そして2020年6月末時点では、China Mobileが14万局以上、China Unicomが13万局以上、China Telecomが10万局以上の基地局展開がされています。中国はもともと国土が広い為、エリア構築には相当数の基地局が必要となりますが、それでもサービスを開始してから8か月で中国全体で40万弱の基地局が建設されているということは本当に凄いことです。

エリアの構築に関しては、基地局展の数と共にエリアが面的に広がっているかどうかも重要となります。実際に5Gのサービスエリアは面的に広がりを見せているのでしょうか? 以下はChina Mobileの北京と上海の5Gエリアマップですが、これを見る限りでも相当数の基地局が既に建設されているのとともに、エリアがしっかりと作られています。今年サービスを開始したばかりの日本はもちろんですが、既にサービスを開始してかなりの時間が経過している米国の5Gのエリアはスポット的な対応であったり、非連続でエリアが構築されていたりなど、ここまでエリアが面で繋がってはいません。既にこのレベルでエリアが構築できいるのであれば、5G加入者は5Gの超大容量高速通信を普段の生活の中でも問題なく体験できるでしょう。

医療系を中心とした5Gの具体的な利用シーン

中国は、5Gスマホや加入者の普及率で世界をけん引しているだけではなく、5Gならではのユースケースにおいても世界をリードしています。中でも遠隔医療、遠隔診断やコロナ患者検知を行うロボットのリモート操作など、コロナ禍において5Gを有効に利用していることが特徴です。

遠隔医療は、China Unicomが世界で初めて5Gを利用した遠隔手術に成功しています。この遠隔手術では、動物の肺葉を切除する手術が行われたのですが、約50km離れた遠隔地から超低遅延の5Gを利用して60分間手術が行われ、見事に成功しています。遠隔医療に関しては、世界各国でデモやPoCは行われていますが、実際に手術を行ったのはChina Unicomが世界初となるようです。

中国といえば、コロナ対策としてたったの1週間で病院を立ち上げたということが驚くべきニュースとなりましたが、この病院建設においてもChina Unicomは5Gを院内に整備し、遠隔診療ができる環境を備え付けています。

また、コロナ患者の早期発見を目的に開発されたロボットでは、5台の温度感知センサーが内蔵されており、ロボットから5メートル以内にいる人の体温を最大10名まで測定できる機能が備えられ、測定されたデータは5Gを通じてリアルタイムでクラウドに転送されると共に、発熱が疑われる人が発見された場合にはリアルタイムでアラームが上がる仕組みになっています。既に広州、上海、貴陽の空港や病院等で導入されています。

その他では、China Mobileが中国で初めての5Gを利用した医療向けのエッジコンピューティングプラットフォームの提供を開始しています。5Gは4Gと比較して無線区間の遅延が激的に改善され、超低遅延のデータ通信を提供することが可能ですが、この低遅延をさらに効果的にするために、アクセスするアプリケーションやデータを極力ユーザの近くに設置するというMEC(Multi-Access Edge Computing)というコンセプトが考えられています。今回China Mobileが提供を開始したプラットフォームはこのMECを利用したものであり、プラットフォームを医療機関に近い場所に設置することで超低遅延を実現し医療に活かすというものです。既に100以上の医療関係業者が利用しているようで、今後ますます拡大していくことでしょう。

圧倒的な加入者数と端末普及で世界の5Gをリードする中国

中国は5Gを開始した時期は早くなかったものの、豊富な端末の供給と加入しやすい料金プラン、そしてエリア展開の高速化によって5Gが一気に普及しており、5Gの加入数も世界一となっています。今後、エリアが拡大されることにより、この勢いは更に加速することが想定され、当面は5Gは中国が世界をけん引することになるでしょう。また、中国は新しいものを試しながらどんどんと取り入れていく風習があるため、ユースケースも非常に豊富であり、日本を初め世界各国は今後も中国の5Gの普及やユースケースからは目が離せないでしょう