ローカル5Gとは
2018年に米国で始まった5Gは、2019年末時点で世界で50社以上の通信事業者がサービスを開始しており、その中でも5Gをけん引する韓国では既に650万台以上の5Gスマートフォンが稼働しています。その5Gサービスですが、いよいよ今年の3月に日本でも始まります。5Gは当初の予想を反して世界各国およびさまざまな産業が積極的に導入を進めていることもあり、日本の通信事業者も当初の5G基地局展開計画を前倒しして積極的に環境整備を行う姿勢を示しています。
最近では5Gのニュースと合わせて「ローカル5G」という言葉をよく聞くようになりました。このローカル5Gとはこれまで話題になっていた5Gとは違うのでしょうか?この記事では、ローカル5Gの特徴、ユースケースおよび国内でいつごろサービスが始まるのかについて解説をしています。
ローカル5Gの特徴とユースケース
4Gや5Gといった通信事業は通信事業者が提供するサービスですが、ローカル5Gに関しては通信事業者以外の団体、組織等が5Gサービスを提供することが可能となります。例えば、ある企業が工場内においてスマートファクトリーの実現に5Gを利用する際、その企業が工場内限定の5G設備を自前で準備をすることで、工場内においてはその企業が5Gサービスを提供できるという仕組みです。
以下は総務省の資料ですが、こちらに記載されているとおりローカル5Gではスタジアム内での利用、遠隔医療、テレワーク環境整備等、いくつかのユースケースでの利用が期待されています。
ローカル5Gを導入するモチベーションとは?
では、企業がわざわざ自前で5G設備を準備しローカル5Gとして5Gを利用することにどのようなメリットがあるのでしょうか?
通信事業者が提供するサービスでは、サービスエリアや通信制御は通信事業者に依存することになります。日本国内では、サービスの品質は高くサービスエリアも全国津々浦々かなり広くカバーされていますが、それでもビルの影や山の影等で電波の受信感度が良くない場所もあります。また、通信の制御に関しては利用者は全く関与できない為、予期せぬ速度規制などにより本来利用したいユースケースに影響を及ボス可能性もあります。
ローカル5Gを導入することでこれらの課題解決が可能であり、企業は本来の目的に合わせて5Gの利用が可能となることから、国内でも非常に注目されており、既にいくつかの企業がローカル5Gへの参入を表明している状況です。
ローカル5Gは特定エリア限定のサービス
ローカル5Gは通常の通信サービスとはサービス提供方法が異なります。ローカル5Gでは5Gをスポット的にカバーする必要があり、ローカル5G提供者の建物や土地、もしくは他社から依頼受けた建物や土地に限定した範囲でサービスを行わなければなりません。従って、ローカル5Gの免許を取得したからという理由で勝手に四方八方に5Gの電波を放出してよいというわけではありません。
余談ですが、実はこれと似たような仕組みが4G LTEでもあり、地域BWAとして通信事業者以外の地域の団体、企業等に4Gの免許が付与されています。ローカル5Gがこれほど盛り上がっているのであれば地域BWAも同様に注目されてもいいはずですが、地域BWAは何故それほど注目されていないのでしょうか。
それは、地域BWAの導入目的が、地域の公共向けおよびデジタルデバイドの解消であり、ローカル5Gのような用途では利用できないからです。したがって、地域BWAではローカル5Gとは異なり局所的にエリアカバーを行うのではなく、地域全体をエリアとして提供しています。ただし、今回のローカル5Gの制度整理と合わせて4G LTEにおいても自営BWAとして制度が整い、今後はLTEにおいてもプライベートLTEとしての利用が可能となりますので、今後はローカル5G同様にプライベートLTEも普及することが想定されます。
ローカル5Gで利用する周波数
2019年12月に総務省より「ローカル5G導入に関するガイドライン」が発表されましたが、この時点ではローカル5Gで利用可能な周波数は28GHz帯のみとなっていました。28GHzはミリ波と呼ばれかなり高い周波数となり、既存のスマホで利用されている周波数と比較すると障害物に弱く電波の到達距離が短くなります。しかしながら、ローカル5Gはスポット的に局所をカバーすることを目的としていることから、28GHzを利用することによる影響は限定的ではないかと考えられます。また、2020年12月には6GHz以下のSub6もローカル5Gへ割り当てられ、既にいくつかの企業から免許申請が出ています。
ローカル5Gのサービス開始時期は!?
2019年12月に総務省から「ローカル5Gに導入に関するガイドライン」が発表されたのとあわせて、ローカル5Gの申請が開始されました。既に国内のいくつかの企業は申請を終えており、それ以外でも多数の企業がローカル5Gに関心を寄せています。
このような状況から考えると、ローカル5Gはすぐにでも開始できるのではないか、また通信事業者が提供する5Gよりも先行して様々なサービスが提供できるのではないかと想定してしまうのですが、それは必ずしも正しくありません。ローカル5Gを提供する際には提供者は5G設備を準備する必要がありますが、このインフラ設備の準備に時間を要することが考えられます。
5Gには、4Gインフラを活用して5Gを提供するNSA(Non Standalone)方式と5Gインフラ単体で5Gサービスを提供するSA(Standalone)方式の2種類があります。世界各国では既に5Gを開始していますが、これらの5Gサービスでは4Gを利用したNSA方式を採用しています。
以下の図のとおり、NSAでは5Gサービスを提供するにあたり4G LTEの無線ネットワークとコアネットワークが必要となります。従って、仮にローカル5G提供事業者がNSAでローカル5Gを提供する場合、5G設備と合わせて4G設備の準備も必要となり、準備期間もさることながらコストもかなりかかってしまいます。
一方、SA方式を利用するためには5G専用のコアネットワークが必要となります。5Gのコアネットワークは従来の4G LTEのコアネットワークとはアーキテクチャが大きく異なるため、まだ多くのインフラベンダーで5Gコアネットワークは開発中となっています。従って、ローカル5Gにて早期にSA方式を利用することは少しハードルが高く、現実的ではありません。ただし、このSA方式は以前より中国が積極的に開発を進めており、また世界の通信事業者も積極的に導入を検討していることから、2020年中にはSAによるサービスが開始されることが見込まれています。
2019年12月にローカル5Gのガイドラインが発表され、多数の企業が関心を示しているローカル5Gではありますが、実際にローカル5Gを利用したサービスが開始されるまでにはもう少し時間がかかりそうです。