2020年4月8日、13年ぶり楽天モバイルがモバイル通信事業者としてモバイルサービスを開始しました。楽天モバイルは2014年からMVNOとして格安SIMの提供を行っていましたが、これまでのサービスと何が異なるのでしょうか。
この記事では、ドコモ、au、ソフトバンクに次ぐ第4のモバイル通信事業者となった楽天モバイルのサービス内容、料金プラン、エリア、速度制限・解約条件などの制約等について解説をしています。
通信事業者として再スタートした楽天モバイル
モバイル通信事業者として再出発
楽天モバイルは、2007年にイー・モバイルがサービスを開始して以来13年ぶりにモバイル通信事業者としてモバイルサービスを開始しました。一方、それ以前も格安SIM事業者として楽天モバイルはサービスを提供していましたが、モバイル通信事業者としてサービスを行うことで何が変わったのでしょうか。
格安SIM事業者の楽天モバイルは、ドコモおよびauのネットワーク(回線)を借用してサービスを提供している為、提供可能なサービスは借用元のドコモやauに依存します。また回線を借用するための費用がかかり、柔軟な料金施策を打ち出すことも容易ではありません。
楽天モバイルは格安SIM事業者としてシェアNo1を獲得していましたが、それでも格安SIM事業者である限りでは大きな収益が見込めないと判断し、自らモバイル通信事業者としてサービスを開始することになりました。
インフラコストを抑える完全仮想化とは?
楽天モバイルがサービスを開始した当初、テレビCMでは「世界初、完全仮想化新世代ネットワーク」という言葉が全面に出ていました。この「完全仮想化」は、実はとても凄いことなのですが、正直、ほとんどのユーザは全く意味が分からなかったのではないでしょうか。
モバイル通信サービスを提供するためには、電波を発射する基地局やスマホの認証を行うコアネットワークなどのインフラが必要であり、モバイル通信事業ではこのインフラコストが莫大である為、新規でモバイル通信事業に参入することが難しくなっています。
従ってインフラコストを極力抑制するために、新規で参入する事業者は既存事業者を買収することで参入することが多いのですが、楽天モバイルは自らすべてのインフラを準備するというとてつもなく凄いことに挑戦しています。
インフラをゼロから構築するとなるとかなりのコストになりますが、楽天モバイルは「完全仮想化ネットワーク」を採用することでコストを抑えることに成功しています。
では、完全仮想化とはどういう意味なのでしょうか?
「通信」という世界は、非常にニッチ市場であるため、これまでは通信に必要なインフラは通信専用の設備として開発されていました。また、専用設備であるため、通信インフラを開発する主要ベンダーはエリクソン、ノキア、Huaweiなど世界でも数社しかなく、各ベンダーはそれぞれ独自の専用インフラを開発していました。従って、通信事業者はインフラベンダーが開発した専用設備を購入するしかなく、柔軟性や価格で課題がありました。
この問題を解決したものが「仮想化」と呼ばれる技術です。
パソコンを使うとき、WordやExcelなどのアプリケーション(ソフトウェア)を利用しますが、それと同じように通信インフラもスマホの認証や位置情報の更新などはソフトウェアが担っています。従来の通信インフラは専用設備であった為、ベンダー専用のハードウェア上でこれらのソフトウェアが動作しており、ハードウェアとソフトウェアが一体化していました。
このハードウェアとソフトウェアを完全に分離し、ソフトウェアをベンダー専用のハードウェアではなく、様々なハードウェア上で柔軟に利用するための技術が「仮想化」です。この仮想化によって、特定の専用ハードウェアを利用する必要がなくなる為、通信事業者は比較的リーズナブルな汎用的なハードウェアを購入し、そのハードウェア上で必要なソフトウェアが動作させることで、コストを大幅に抑えることができるのです。
通信インフラに仮想化技術を導入するという動きは数年前から始まっており、既存通信事業者も少しずつ従来のインフラを仮想化インフラに移行していますが、すべてのインフラを仮想化で実現している通信事業者は恐らく楽天モバイルが世界で初めてでしょう。

楽天モバイルのエリアは狭いがauへのローミングでカバー
楽天モバイルは、2018年4月にモバイル通信サービスを行う通信事業者として認可を受けており、それから2年後の2020年4月に本格サービスをスタートしています。先ほど説明したとおり、楽天モバイルはゼロからインフラを構築しているので、ドコモなどの他社と同程度のサービスエリアを構築するためには相当な時間が必要です。
2020年8月現在、主要都市のエリア状況は以下のようになっています。濃いピンク色のエリアが楽天モバイルが自ら基地局を建設してサービスを提供しているエリアとなっています。見てのとおり、主要都市部においてもかなりエリアは限定的です。これではユーザがサービスを受けられるエリアが限定されてしまう為、楽天モバイルはauと提携し、楽天モバイルの基地局が無いエリアにおいてはauのネットワークにローミングする仕組みを取り入れています。これにより、ユーザは少なくとも全国のauのエリアにおいて利用可能となります。以下の地図では、うすいピンク色のエリアがauエリアとなります。
2020年6月末時点では、全国の基地局数は約5,700局程度ですが、2021年3月末までに人口カバー率70%とし、2021年夏ごろまでには基地局数は約27,000局、人口カバー率96%を満たす計画となっています。
通信業界を仰天させる使い放題料金プラン
楽天モバイルとドコモ、au、ソフトバンクのサービスで大きく異なる点は何といっても料金プランでしょう。楽天モバイルの料金プランは非常にシンプルであり、「Rakuten UN-LIMIT2.0」プラン一つしかなく、毎月2,980円でデータ通信も通話も使い放題となっています。
ただし、現時点では楽天モバイルが自ら提供しているエリアは限定的であり、自営エリア以外ではauのネットワークを利用していることから、エリアによってサービスが多少異なることに注意が必要です。特にデータ通信に関しては、auエリアでは5GBまでに制限され、5GBを超えると速度制限が適用され最速でも1Mbpsとなってしまいます。
1Mbpsは一見ストレスなく利用できる通信速度のように見えますが、実はそうではありません。例えば、スマホ版のYahooトップページは約240KBのサイズとなりますが、1Mbpsの速度ではYahooのトップページ表示に最速でも約2秒かかります。速度制限が適用されている環境では、平均の通信速度は数百Kbps後半程度となるので、Yahooのトップページの表示時間は3秒以上はかかるでしょう。
モバイルの世界では、Webページの表示に3秒以上かかる場合、ユーザの半数は離脱しそのページから離れてしまうと言われています。つまり、ユーザはWebページの表示に3秒も待てず、3秒もかかるようであればそれだけストレスを感じているということになります。従って、1Mbpsに速度制限されてしまったスマホでは、Webブラウジングは常にストレスを感じながらの閲覧となり、とても使い物にはなりませんので注意が必要です。
音声通話の使い放題に関しても注意が必要です。音声通話に関しては、ドコモなどと同じように通常の通話は30秒20円です。通話使い放題となっていますが、これはRakutenが新たに提供をしているRakuten Linkというアプリを利用した場合に限定されます。アプリの利用は必要ですが、それでも国内において音声通話がすべて使い放題というサービスは音声通話の多いユーザにとっては非常にメリットのあるサービスとなっています。

iPhoneは未発売であるが利用可能!
楽天モバイルは既に10機種以上のスマホを発売しています。また、楽天モバイルが発売しているスマホ以外でも動作が確認されているスマホが多々あり、これらはホームページで対応状況が公表されています。

スマホの機種に関しては、ドコモなどの他社と同様にサムスン、ソニーモバイル、シャープ、Huaweiなど主要端末メーカーの機種が発売されていますが、国内で一番人気のあるiPhoneが発売されていません。
楽天モバイルからiPhoneは発売されていませんが、以下の楽天モバイルの利用可能なスマホ一覧にはiPhoneも記載されているので、今利用しているiPhoneを利用したりSIMフリーのiPhoneを購入することで利用することはできます。ただし、SMSに関しては楽天エリアのみでしか利用できず、それ以外のauのエリアでは利用できません。また、iPhone11やiPhone10sなど一部は動作確認済み機種となっていますが、少し前の機種であるiPhoneXやiPhone8は利用できないので注意が必要です。

最低利用期間の制限はないが、通信制限に注意!?
Wi-Fiルータの代わりとして利用できるテザリング
楽天モバイルの公式ホームページには、通信制限について以下の記載があります。実際に通信速度の制限があるのかどうか、実験してみました。
お客様に公平にサービスを提供するために有益と認める通信速度の制御、通信の最適化(ブラウザやアプリで再生される動画、大容量ファイルのダウンロード等、大容量の通信を発生させ他のお客様への公平なサービス提供に支障をきたす恐れのある場合、それらのファイルサイズの圧縮等を行うことをいいます)を行うことがあります
結論として、楽天モバイルは通信制限を行っています。1日に10GB以上のデータ通信量を消費すると通信速度が2から3Mbpsに制限されます。速度制限されるタイミングは、データ通信量が10GBを超えた直後からとなります。そして、その速度制限はその日の24時を過ぎた瞬間に解除されるようです。
このように楽天モバイルでも他社同様にに通信速度の制限を設けていますが、1日に10GB以上利用しなければ制限がかからないので、テザリングを行ったとしても圧縮された動画やWebブラウジングなどの通常利用においてはWi-Fiルータの代用として利用できそうです。
現時点では楽天モバイルの自営エリアは狭く、実質データ使い放題なエリアは限定的ですが、エリアが広がった際にはWi-Fiルータの代わりに楽天モバイルのスマホをテザリングで利用するという使い方ができそうです。
最低利用期間はなく、いつでも解約可能
2019年10月より、総務省主導で行われてきた「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備」の一環で、スマホの長期契約時の高額な解除料金を課することが禁止となりました。これに合わせてドコモ、au、ソフトバンクは契約解除料を従来の9,500円から無料もしくは1,000円程度に変更しました。
新規参入の楽天モバイルは、サービス開始当初から長期契約を導入しておらず、また解約に関しても事務手数料以外は無料で解約ができるようになっています。
2021年以降のサービスに期待
2020年4月にサービスを開始した楽天モバイルですが、先着300万人に対して1年間料金を無料にするキャンペーンを行っています。2020年6月末にユーザ数100万人に達していますが、このペースでいけば当面はこのキャンペーンは継続されることが想定されます。
無料キャンペーンによりユーザ数は順調に増えていますが、このキャンペーンが終了した際にどの程度のユーザが楽天モバイルを継続利用するか、そしてその為にはドコモなどの既存事業者とどのように差別化をしていくかが重要となります。
現時点では、リーズナブルな価格でデータ通信、音声通話使い放題サービスを提供しているものの、サービスエリアが限定的でありメインの回線として楽天モバイルを利用するには不安があります。また、既存楽天サービスとの連携という部分では、楽天ポイントの特別付与程度しかなく、あえて楽天モバイルを選択する理由も見当たりません。
今後、楽天モバイルが自ら提供するエリアが広がった際、データ通信使い放題以外で楽天モバイルを選択したくなるような新たなサービスや既存サービスとの連携を打ち出せるかによってユーザ数は大きく変わってくるでしょう。
