
医療最前線:がん治療の革命児たち
楽天グループが主催の「Rakuten OPTIMISM 2019」において、がんの領域では名医である医師を迎えてパネルディスカッションが行われました。Rakuten OPTIMISMがどんなものなのかについては以下に纏めてありますので、こちらを参照してください。
パネルディスカッションは、「がん治療の革命児たち」をテーマとし、最新のがん治療方法やがんは最終的には治るのかについて意見交換がされました。
楽天株式会社 執行役員:古橋 洋人
南カリフォルニア大学 創業者:デイビット・B・エイガス
京都大学 iPS細胞研究所長:山中伸弥
米国立がん研究所 主任研究員:小林久隆
注目されている癌治療、免疫療法
古橋氏:現在のがん治療の状況を教えてください。
山中氏:日本人の死因の30%は癌であり、男性は6割が女性は4割が癌になる時代である。iPS細胞が発明されてから12年が経過しており、1980年代に我々は2000年にはがんを克服できると予想していた。だが、実際はまだまだ克服できていない。
これまでのがんの治療は、手術、抗がん剤、放射線の3大治療法を踏襲してきたが、ここへきて第4のがん治療法として免疫療法があがってきた。免疫療法とは、リンパ球の免疫力を強化してがんをやっつける治療法であり、オプシーボがその代表例である。
我々も細胞からがんを攻撃する免疫細胞を作ることに企業とタッグを組んで力を入れており、その中でも武田薬品と共同で行っているものが一番大きい。
3大治療法では効果が上がってきているが、いずれの場合でも貧血がおこるという問題がある。現在は、献血を行うことで輸血に必要な血液を供給できているが、今の状況では5年以内に献血だけでは輸血を賄えなくなってしまう。従って、この対策としてiPS細胞から血小板、赤血球を作る取り組みを行っており、血小板に関しては臨床試験までたどり着いた。
小林氏:先ほど山中先生が分かりやすく説明をしてくれたが、これまでのがんの3大治療法はどうしても免疫力を下げてしまう。そこで、がん細胞を減らしながら免疫力を上げることが基本の光免疫療法が注目されている。
癌治療に関しては、血液癌はかなりいい薬が増えてきたが固形癌はまだまだ進んでいない。そこで、この光免疫療法はまずは固形癌をターゲットとしている。可能であれば、がんが転移してしまった患者さんにも使っていきたい。
癌治療にはテクノロジーは不可欠
古橋氏:今は5G、AIなど様々なテクノロジーがあるが、医療におけるテクノロジーの役割についてはどう考えているか?
山中氏:薬の効果はこれまではマウスを利用して実験を行ってきたが、これからは患者から学んでいく必要があると考えている。同じ癌であっても癌は患者によって全然中身が違う。従って、一人一人にあった治療をどうすべきかが課題であり、これを分析するためには膨大なデータが必要になる。
これからは患者一人一人のデータを管理していく必要があり、それを実現するために不可欠なものがITである。インターネットを検索するとたくさん情報はあるが、その中でどれが正しい情報であるかわからないことも課題であるので、これらの情報をふぉのようにSortしていくかについて医療とITが組んで取り組む必要がある。
デイビット氏:データの収集を行う際にはテクノロジーが不可欠である。例えば、体の中に小さな機器を埋め込んで、患者のデータを5Gを使って常時クラウドに送り続けるということが実現できる未来が来るかもしれない。ヘルスケアをローカルで行う時代は終わり、5Gによってデータの扱い方が大きく変わるであろう。
小林氏:がん患者の体の中では、10億個のがん細胞と2億個の免疫細胞が戦っている状態である。これはとてつもない数で、とてつもないデータを管理していくことが必要となる。これらのデータをビッグデータとして扱いAIで分析・判断を行っていくしかない。また、このようなデータを5Gを使ってデータを必要としている医師に的確に届けられるようになるとよいと考えている。
癌はなくならないが、5年以内に・・・

古橋氏:結局、がんはいつなくなると考えているか?
山中氏:癌はかなりパワーがあるので無くすことは難しいと考えている。一度癌を克服してよくなったとしても数年後には蘇ることがある。そのくらい癌のパワーは強い。
ただし、治療に関しては劇的な進歩を遂げており、今後5年以内に今まで治らなかった癌に対して効果があるような治療法がたくさん出てくるであろう。それでも癌を完全になくすまでには時間がかかるので、がんを如何にコントロールしていくかが大事になる。
デイビット氏:癌を治すことはできないが、がんはコントロールすることが可能である。また、がんのうち60%は予防をすることができる。このコントロールと予防については世界的な統一した政策が必要であると考えている。
小林氏:癌を治すことはかなり難しい。ただし、治療の進歩がすごいので、がんで死なない世界がもうすぐにでも来ると考えている。