アップルも反対する総務省が導入した端末代金分離プランとは?

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昨年から総務省が進めているスマホの端末料金と通信利用料金の完全分離に関する協議に関して、総務省は意見募集を行っており2019年8月23日に募集した意見が公表されました。その中でiPhone/iPadを製造しているアップル社から強い反発意見が出ており話題となっています。

問題となっているスマホの端末料金と通話利用料金の完全分離とはいったいどのようなものなのでしょうか?この記事では、完全分離の議論に至った経緯から、その内容までわかりやすく説明をしています。

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完全分離議論の経緯と内容

端末料金と通信利用料金の完全分離というのは何なのでしょうか?

スマホ端末が安くなる仕組み

最近は大分減ってきてはいますが、街中のケータイショップや家電量販店には「10,000円のキャッシュバック」や「スマホ ゼロ円」などの看板チラシが並び、スマホ端末を安くもしくは無料で手に入れることが可能となっています。ここで疑問なのは、高機能のスマホ端末をなぜ無料もしくはキャッシュバック付きで手に入れることができるのかということです。

最近のスマホは高機能化が進み端末の定価は安くても5万円前後、高いもので10万円を超えます。このような高額なスマホをゼロ円や安く手に入れることができるのは、通信事業者が補填をしているからです。この補填を奨励金(インセンティブ)と呼んでいるのですが、通信事業者が販売店に対してインセンティブを払っている為、販売店は思い切った価格で端末を売ることができます。

例えば、販売店の端末の仕入れ価格が4万円であり、通信事業者が5万円のインセンティブを販売店に渡しているという場合には、販売店はゼロ円で販売しても1万円の利益になります。従って、販売店は最悪ゼロ円であっても売った方が得であるため、ゼロ円端末というものが生まれていました。

通信事業者からのインセンティブでスマホ端末は安くなる

では、通信事業者が支払っているインセンティブの原資は何なのでしょうか?

それはもちろんユーザが毎月支払っている月額基本料を含む通信料金です。通信事業者は既存ユーザの通信利用料金として得た収入の一部をインセンティブとして販売店に渡しています。通信事業者が身銭を削ってまでインセンティブを支払うのは、新規ユーザを獲得するための他ありません。ユーザは一度通信事業者と契約すると長期にわたってその通信事業者のユーザであり続ける可能性が高く、その為、通信事業者は先行投資としてインセンティブを支払ってでもユーザを獲得したいのです。

このように既存の仕組みでは、端末料金の一部を通信利用料金から支払う形で補填を行っていますが、総務省はこの端末料金と通信利用料金を完全に分けることを推奨し、完全分離プランの導入を促しています。

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総務省が考える既存の仕組みの問題点

この仕組みは、ユーザはゼロ円でスマホ端末を手に入れることができユーザのメリットも大きいように見受けられますが、なぜ総務省はこれを問題視しているのでしょうか?

総務省は、「携帯電話の販売代理店の一部において大幅な端末値引や高額なキャッシュバック等が行われていることが、端末価格や通信料金の負担について消費者が正確に理解することを困難にし、利用者間の公平性の観点から問題である」と考えているようです。つまり、スマホ端末を頻繁に買い替えるユーザにとってはメリットがあるものの、長い間同じスマホ端末を使い続けるユーザは不利益を被る為、公平性の観点から問題であると言っているのです。

この総務省の考えに基づき、端末料金と通信利用料金は分けるべきであるという議論がもちあがり、2018年10月に総務省が「消費者保護ルールの検証に関するWG」という会合を立ち上げ、この料金完全分離について協議をしてきました。このWGのメンバーは大学教授や消費者団体を中心として構成されています。

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完全分離でいつからどのように変わる?

総務省は既存の仕組みをどのように変えたいのでしょうか?

総務省は、端末料金の一部を通信利用料金で補完していることに懸念を示しており、「通信料金と端末代金の完全分離、期間拘束などの行き過ぎた囲い込みの是正のための制度を整備」が必要であると考えています。その結果、先の「消費者ほぼルールの検証に関するWG」での見解は以下のとおりとなっています。

  1. 通信役務の継続利用及び端末の購入等を条件として行う利益の提供を一律禁止
  2. 通信役務の利用及び端末の購入等を条件として行う利益の提供⇒2万円(税抜)を超えるものを禁止

1の内容をもう少しわかりやすく説明すると、通信事業者が指定したスマホ端末を購入することによって毎月の通信利用料金を値引きするサービスの提供は一切禁止するという意味です。具体的には、ドコモの「docomo with」サービスがこれに抵触します。docomo withは、ドコモが指定した対象端末を購入し、その端末を使い続けると通信料金が毎月1,500円割り引かれるというものです。このサービスは総務省の完全分離議論の行方を見据えて5月末で新規申込受付を終了していますが、今後はこのようなサービスは一切できなくなります。

2に関しては、ドコモ、au、ソフトバンクの全通信事業者がこれまで行ってきた端末の割引サービスが、今後は最大でも2万円までしか割り引きができなくなるという制約です。つまり、定価10万円のスマホ端末は値引きの最大が2万円なので、安くても8万円になります。端末価格はかなり高くなりますね。

ただし、この端末の値引き指定には以下4つの例外があります。

1つ目は、廉価版スマホ端末に関してはゼロ円以下とならない範囲で値引きが可能です。廉価版スマホとは機能が絞られた端末であり、総務省のこの議論の中では2万円以下(税抜き)の端末を廉価版と呼んでいます。

2つ目は、古い端末は値引きが可能となっています。具体的には、通信事業者がメーカから端末を調達してから24か月経過している端末は、その端末の定価の半額までの値引きが可能です。つまり、通信事業者の倉庫に2年間売られずに眠っていた端末は半額で売れますということです。

3つ目は、製造中止になった端末も値引きが可能となっています。製造が中止された端末のうち最終調達日から12か月経過した端末は半額までの値引きが可能であり、24か月経過した端末は端末の定価の8割まで値引きが可能となっています。

この2と3は、通信事業者の在庫を減らすために作られた例外施策ですね。

4つ目は、新規受付終了した通信方式のユーザが新しい通信方式に移行するために購入する端末は、0円未満とならない範囲で値引きが可能です。これはどういうことかというと、例えばauは「cdma2000 1x WIN」というサービスを2022年3月末に終了すると発表していますが、このサービスが終了するcdma2000 1x WIN端末を利用しているユーザに対して、別のサービスへ移行してもらうために販売する端末を割引する際にはゼロ円まで値引きをすることが可能になるということです。つまりは、古いシステムを巻き取るための施策であればゼロ円端末を販売しても問題ないということです。

これらの制約に関する省令は、このまま問題なく進めば2019年10月1日に変更・施行され、通信事業者はこれらのルールに従って端末を販売しなくてはならなくなります。

ユーザ、通信事業者、端末メーカーのメリット・デメリット

今回の省令の変更によってユーザ、通信事業者、端末メーカーにどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか?

まずユーザですが、スマホ端末を頻繁に変えないユーザにとっては、今回の省令変更によって通信料金が下がる可能性がありメリットがあるとされています。しかし、本当でしょうか?通信事業者3社は、今回の省令変更を見据えて、既に端末料金と通信利用料金を分離し、ユーザが利用した通信量に合わせて毎月の通信料金が変動するプランを導入しています。このプランは総務省の意向に既に沿っているため、今後新たに同一端末を長く使い続けるユーザ向けに良いプランが出てくるということは考えにくいと思われます。もちろん、今回の議論を踏まえて分離プランが導入されたということはメリットではありますが。

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一方で今後は端末の値引き額も2万円が上限になってしまうことから端末価格が高止まりし、ユーザにとっては端末購入金額が高くなってしまうことは大きなデメリットです。特に最近は端末の高機能化に合わせて端末価格がかなり高くなっているので、ユーザも端末を買い控える傾向になることが想定されます。

通信事業者にとっては、これまで販売店に払ってきた多額のインセンティブがかなり圧縮されるため、直近の利益は非常に良くなるでしょう。しかしながら、ユーザが端末を頻繁に交換しなくなってしまうと新たなサービスを導入しても対応端末が広まらず、結果として新規サービスの普及に時間がかかってしまうということが懸念されます。特に来年は5Gが開始されますが、5Gの端末はかなり高額になることが想定されるため、5Gの普及に影響を及ぼすでしょう。

端末メーカーに関しては、これまでは通信事業者のインセンティブで端末料金を下げることでユーザが端末を買いやすくしていましたが、今後はこのやり方が使えなくなってしまう為、端末の販売台数が大幅に減ってしまうことが想定されます。それを想定してか、8月23日に総務省が発表した「「電気通信事業法施行規則等の一部を改正する省令案等」に対する意見募集結果」を見ると、iPhone/iPadを製造しているアップル社から以下の3つの観点で反対意見が出ています。

競争の抑制につながること等から、本省令案の趣旨等に反対
アップルは、「この度の総務省令案のいくつかの条文は競争の抑制につながり、日本のお客様に対しさらに高い価格で今より少ない選択肢という状況をもたらすものである」と今回の省令改正を批判しています。

在庫端末の特例に関する現行案は、修正すべき
先に説明した在庫端末の例外処置についても反対を示しています。アップルは旧機種でも製造を継続して新機種と合わせて販売する戦略をとっているため、iPhoneやiPadがこの例外に当てはまらないため、「製品の発表からXX月を経過した製品すべてにおいて割引の提供を許容すべきである」と訴えています。

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誰も得をしない省令変更、5G普及にも影響あり!?

このように当初はユーザ保護の観点から始まった議論ですが、最終的な着地点ではユーザ、通信事業者、端末メーカの3者いずれにも大きなメリットが無くデメリットの方が大きい今回の省令改正、正直官製不況としか言いようがありません。2007年に「モバイルビジネス活性化プラン」という形で総務省による販売の制約が行われた際には、国内の端末メーカーはほとんど撤退に追い込まれました。あれから12年、今はグローバルの端末メーカーがグローバル向けに開発した端末を日本で販売しており、その中でも日本は販売台数が多いため、日本の通信事業者の特別な仕様を端末に組み込んでもらっていました。今回の省令変更によって端末の販売台数が大幅に落ち込むと、これまでのような日本仕様を端末に組み込むことができず、最高峰といわれている日本の通信品質にも大きな影響が出ることが想定されます。

9月には新しいiPhoneが発売される予定であり、通信事業者各社は10月1日に適用される新しい省令に合わせて販売することになります。9月半ばにはドコモ、au、ソフトバンクから新しい料金プランが発表されることが想定さますが、どんなプランになるのか楽しみですね!

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